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考察とか感想とか疑問とかSS

あんしゃんぶるしゅたーず!

果てしない物語

✳︎ファンタジー童話風味

 

0.
むかしむかしあるところに、小さいながらも平和でうつくしい国がありました。
国には仲のよいよにんの王子がおりました。
いちばんめの王子はまるで少女のような麗しさ、だけどもしっかり者でみんなの中心となって国を守っていました。
にばんめの王子はすこし人見知りでしたがやさしい心の持ち主でみんなから好かれておりました。
さんばんめの王子はたいへん活発でいつも元気に走りまわってみんなを楽しませていました。
よばんめの王子はまさに平々凡々、これといって特徴のない王子でしたがつねにみんなのことを思いやって、よにんの王子たちが治める国は平和でそのものでした。
あくる日のことです。いちばんめの王子がわるい知らせをみんなに伝えました。
その知らせとは、わるいまほうつかいがいろいろな国を渡り歩き、世界を混乱させようとしていることでした。
王子たちはとても不安な気持ちでいっぱいになりました。じぶんたちの国は美しいが小さく、だれかに攻めこまれたらひとたまりもありません。
そこで王子たちはほかの国に協力をもとめ、まほうつかいを退治する旅にでることにしました。
問題はだれが旅にでるかいうことです。いちばんめの王子はみんなの中心だったので国をはなれることができず、にばんめの王子は気がよわく旅にはむいていない性格です。
さんばんめの王子は無鉄砲なところがあり、ひとりで行動させるのは危険です。
そこで白羽の矢がたったのがよばんめの王子でした。
かれはとくべつな才能はありませんでしたが、根気づよく、どのような逆境でもめげないこころを持っていました。
よばんめの王子はみなを助けるため、国を守るため、旅にでる決意をしました。
ほかの王子たちはたいそう心配しました。きっと国民たちもよばんめの王子が旅に出ることを知ると心配するでしょう。よにんの王子たちは相談し、おしのびで国をしゅっぱつするためによばんめの王子は王子の姿ではなく、王女の姿で国をはなれることとなりました。
みんなの心配を無下にしてはいけません。よばんめの王子はいやいやながら王女のすがたに着替えました。王子はじぶんでは気づいていませんでしたが、どこからどうみてもかわいい王女様にしかみえませんでした。
はにかむ笑顔は花がほころぶよう、こりすのように大きいひとみには星がきらめいていました。
いちばんめの王子はかれに王家に代々伝わるまほうの剣を、にばんめの王子はじぶんで作った香り袋を、さんばんめの王子はおなかがすいたときのためにとおいしいパンをかに授けました。
これからつらくきびしい長い旅がはじまります。わるいまほうつかいを倒すためには、できるだけたくさんの仲間を見つけたほうがよいでしょう。
まず王子……いや、王女はそう遠くない隣の国をおとずれることとしました。

Ⅰ.
隣の国は常に空に星がきらめき、心はずむ音楽がながれる国でした。その国は科学者がおおく、みたことのない機械を国のひとびとが使いこなしていました。
王女はその国のリーダーのことをたいそう慕っておりました。
むかし隣の国はとある皇帝が絶対的支配権をにぎり、国のひとびとたちは息苦しくつらい毎日のなか暮らしていました。王女が慕っている男は、数年前に仲間とともに腐りきった国で革命をおこし、いまのすばらしい国を取り戻したのです。
王女はリーダーに会いに行こうとしましたがあいにくかれは国を離れているようで、かわりにかれの仲間たちと会うこととなりました。
案内された場所にいたのは人なつっこくきらきらした笑顔をみせている青年と、めがねをかけたやさしそうな青年でした。王女はふたりにあうのははじめてでしたが、ふたりはリーダーから王女のはなしをきいていたようで、王女のすがたをしていることに驚いていましたが(とくに人なつこい男はドレスについたキラキラした飾りが気になって仕方がないようでした)、たいへん親切に王女のはなしをきいてくれました。
めがねをかけた男は国のあらゆる情報機関に精通し、ほかの国の状況にも詳しいようでした。かれの話ではわるいまほうつかいは謎の奇術をつかい、人のこころを意のままに操るということでした。王女はかれに情報屋として協力してくれないかと頼みました。
しかしかれは国の情報機関にいるために国外に行ける状況ではなく、彼らのもう1人の仲間がいるという西の国へ行くよう助言をくれました。

Ⅱ.
西の国ときいて王女は内心不安でいっぱいでした。なにせ西の国といえば吸血鬼の兄弟が国を治めているとのうわさです。西の国は鬱蒼と生い茂った森の奥深くにあり、王女が国にたどり着くころにはすっかり日が暮れていました。
お城についた王子はまず隣の国の仲間の男に会うことにしました。
彼はうら若い王女がこんなおそくに自分の元を訪ねたことにたいそう驚いていましたが、王女がわるいまほうつかいを倒すため旅をしていることを知るとなんとかして力になることを約束してくれました。
西の国の王子は彼の幼なじみで、その日の真夜中に行われるという舞踏会で王女は王子と会うこととなりました。
夜が更けて、舞踏会を訪れた王女は豪奢なシャンデリア、完璧に磨き上げられたまばゆいばかりのダンスフロア、うつくしく着飾った貴族たちに圧倒されるばかりでした。たくさんの人がいたものですから、うっかり王女は隣の国の男とはぐれてしまい困り果ててしまいました。
困っている王女をみた周りの男たちは王女をダンスに誘おうとしましたが、1人の青年が王女の前に現れ、強引にダンスを申し込みました。青年は血のように真っ赤な瞳をし、夜闇のように艶やかな黒い髪をしていました。いささか強すぎるのではないか、というリードで彼と王女はワルツを踊ります。王女には彼はすこしばかり不機嫌なようにみえました。しかし彼は王女を冷めた瞳で一瞥するだけで、とくになにも話しかけてきませんでした。王女が戸惑っていると、隣の国の男が血相をかえてこちらに向かってくるのが見えました。彼は慌てて王女と青年をひきはがし、これが西の国の弟王子だと王女に紹介しました。弟王子は知らない王女がいたので試しに血を吸おうとした……となにやら恐ろしいことをつぶやいていましたが王女は聞かなかったふりをすることしかできませんでした。
王女は西の国の王子に自分がわるいまほうつかいを倒すために旅をしていること、できるだけ仲間がたくさん必要だということを話しました。
西の国の王子は、自分の兄がそのまほうつかいと知り合いだということを王女にはなしました。しかし、王子の兄は国外に遠征にでており、しばらく帰ってくる気配がなかったため王女はすこしがっかりしました。王子は幼なじみと国を守るため自分は一緒に旅をすることはできないが、ここから数日ばかり離れたところにある砂漠の国に有名な剣士がいるので声をかけてみるとよい、と教えてくれました。

Ⅲ.
砂漠の国は西の国からすこし遠く、王女はすっかり疲れ果ててしまいました。
そこで王女は国に向かう途中にあるオアシスへと向かうことにしました。うつくしいオアシスて身体を清め休憩した王女は、草むらに誰かが倒れていることに気づきました。
倒れていたのは美しい鎧に身を包んだ褐色の肌の男でした。
王女はすくに彼に近寄り、生きているかどうか確かめました。彼は気を失っているだけのようてしたので王女は彼に水をすこしかけて目を覚まさせました。
実は男は旅に出た帰りでもう少しで砂漠の国に帰れるというところで食料が尽きてしまい、オアシスで行き倒れてしまっていたのです。
王女はさんばんめの王子からパンをもらったことを思い出し、すぐさま彼に与えました。
彼はたいそう喜び、こんなにおいしいあんパンをくれた王女に恩返しがしたいと、砂漠の国に王女を招待してくれました。
正直これは王女にとって願ってもいない朗報でした。
なんとその男は砂漠の国の王子の側近で、砂漠の国の王子こそが西の国の王子がはなしていた剣士だったのです。
側近の男を助けた王女は砂漠の国の晩餐会に招かれました。
見たこともないような異国の美味しそうな果物や大きな牛の丸焼きなと、たくさんのご馳走が並ぶ晩餐会で側近の男は王女に元気がでるようたくさん肉を食べさせました。
王女ははやく砂漠の国の王子に会いたがったのですが、男は謎めいた微笑みを浮かべるばかりで王子はなかなか現れません。
お腹もいっぱいになったところで王女を歓迎するため踊り子たちの舞がはじまりました。
そこで現れたのは純白のゆったりとした美しいシルクを身にまとい、たくさんの黄金の宝石を身に纏った踊り子でした。彼は美しい刀剣を携えており、見事な剣舞を披露しました。踊り子の動きにあわせ光にあたった宝石がきらきらと輝き、剣さばきはその煌めきをうけ踊り子をさらに輝かせていました。王女はこんなにも美しいものはいままでみたことがないと、いたく感動しました。側近の男にお礼を述べようとすると、踊り子がこちらに近づいてきました。踊り子は王女に、自分は砂漠の国の王子で、王女をおどろかせるために踊りを披露したこと、褒めてくれて嬉しいということ、また側近を助けてくれてたいへん感謝していることを伝えました。王子は王女への御礼にと剣の稽古をつけてくれることを提案しました。王女はとつぜんの展開に驚きましたが、喜んで稽古をつけてもらうこととなりました。稽古は王女が思ったよりも辛く厳しいものでしたが、砂漠の王子は面倒見がよく、側近の男も練習に協力してくれたので王女はめきめきと剣の腕前をあげることができました。

Ⅳ.
思ったよりも長く砂漠の国に滞在してしまった王女は次にどこの国を訪れるか悩んでいました。砂漠の王子が稽古をつけてくれたお陰で王女はすこし自分に自信が持てるようになりましたので、己の力を試してみたくなったのです。そこで王女は、いたずら好きの双子の王子が住むという海辺の国を訪れることにしました。港がある海辺の国では、定期的に双子の王子たちが格闘技大会を実施しており、世界中からつわもの達があつまるときいたからです。ここでまほうつかいを共に倒す仲間を見つけることができれば、大きな戦力となるでしょう。砂漠の国の王子と側近の男に御礼と別れを告げ、王女はふたたび海辺の国を目指して旅にでました。海辺の国の港についたところたくさんの船が停泊しており、王女はそれを眺めているだけで楽しい気持ちになりました。思えばずいぶんと自分の国を離れて遠くまできたものです。他の王子達は元気にしているだろうか、と思いを馳せていると広場から大きな歓声が聞こえてきました。広場に向かった王女はそこで、2人の身軽な青年があちこちと飛び回ったり、アクロバティックな動きをしながら大道芸をみんなに披露しているのを見ました。歓声はどうやらここから聞こえていたようです。2人の青年は全く同じ顔立ちをしており、入れ替わり立ち代り見たことのないような曲芸を披露し、観衆を大いに楽しませていました。曲芸が終わると2人は王女の元にやってきて、こんなところにお姫さまがいるなんていったいどういうことなんだろう?どうしてこの街にきたの?と口々に述べました。そして自分たちはこの国の王子で、今日は城下町の視察から抜け出して広場で大道芸をしていたんだ、といたずらっぽく笑いました。王女は2人の見分けが全くつきませんでしたが2人の王子と友達になり、いままでの旅の経緯を話しました。2人の王子は王女が実は自分は王女ではなく王子だと告げると顔を見合わせてお腹がよじれてしまうほど笑いだしたので王女はすこし腹が立ちましたが、そんな王女をみて2人の王子は自分たちが絶対に力になる、こんなに面白いことに首をつっこまないわけがない!と王女に協力してくれることになったので2人を許すことにしました。ただ残念なことに今は格闘技大会を開催していない季節だったので、王女は戦士を見つけることが難しいようでした。2人の王子は自分達の友達が船で渡った先の南の国で戦士をしていることを教え、南の国まで行く船を貸してくれることとなりました。

Ⅴ.
南の国に王女が到着すると、王女を待ち構えるようにずらっと騎士団が並んでいたので王女はとてもびっくりしてしまいました。騎士団には5人の戦士がおり、その中に双子の王子の友達が何人かいました。双子の王子から話をきいた戦士たちは王女を出迎えに港まできていたのです。5人の戦士のリーダーは太陽のように明るく元気な青年で、他にはなぜか全身びしょ濡れでにこにことしている青年、芯の強い瞳をもった活発そうな青年、背が高くおっとりしていそうな青年、人見知りなのか片目を髪で隠して恥ずかしそうにしている青年がおりました。
リーダーの戦士は今日はゆっくりと身体を休め、あすに戦士のうちのひとり、そうだな!緑の戦士と剣の稽古をするといい!と王女に伝えました。緑の戦士はそれを聞いてたいそう憂鬱そうな表情を浮かべましたが、王女が双子の王子の友達だと知りいくばか憂鬱も和らいだようでした。
その晩王女は双子の王子の友達だという黒の戦士と黄の戦士(芯の強そうな瞳の青年と人見知りの青年がそうでした)と緑の戦士とともに今までの冒険譚を語り合いました。
すっかり3人の戦士と打ち解けた王女は旅の仲間を探していることを彼らにつげましたが、みんな国を離れて旅をするのはなかなか難しいようでした。しかし彼らは王女を励まし、他に協力できることがあれば任せてほしい!と胸をはってくれたので王女は心強い気持ちになりました。
翌日、緑の戦士と共に剣の稽古にでようとした王女でしたが、リーダーの赤の戦士が息を切らして王女のもとにやってきました。きくと、南の国の隣にある雪の国にわるいまほうつかいが訪れ、雪の騎士団が壊滅状態になっているということです。
南の国の戦士たちは雪の騎士団を助けるため、雪の国に向かうとのことでしたので王女も彼らと共に雪の国へ向かうこととなりました。

Ⅵ.
雪の国についた王女はその寒さに凍えそうになりました。わるいまほうつかいが訪れ、国じゅうに大雪を降らせて作物がだめになってしまったこと、そのせいで民が苦しみ怒りを王に向けて騎士団が大あらわになっていたのです。
王女と南の国の騎士一行は雪の国の王がいる古城へ向かうことにしました。古城へついた王女たちは雪の騎士団と対面しました。
彼らは長い混乱で疲れ切っているようでしたが、王女たちの前では気丈に振る舞いこちらのことをもてなしてくれました。夕食のあと、王女は部屋で休んでいました。そろそろ眠りにつこうとしたその時、部屋の扉を誰かが叩きました。
こんな夜更けになんだろう?と王女が扉を開けたところ、先ほどの雪の騎士団の中で1番若い青年が浮かない顔をして王女に相談を打ち明けてきました。彼は長きにわたって民衆の不満を受け止めてきた王さまが突如行方をくらましてしまったこと、そのため他の騎士たちはろくに睡眠も取らずに城を守り王の不在を隠していること、自分はいちばん若くみんなから頼りにされていないが騎士団のひとりとしてみんなの役に立ちたいことを王女に告げました。
王女はその話をきき、ぜひ自分が彼の力になりたいと強く思いました。若き騎士の無力さが自分と重なって思えたからです。
王女は王がいなくなったときの状況をききましたが、わるいまほうつかいが現れた1ヶ月後の吹雪の夜が明けるともう既に王は姿を消しており、手がかりがなにもないとのことでした。
困り果てた王女でしたが、そういえば隣の国に情報機関にいる男がいることを思い出し、彼に王の行方についてなにか知らないか連絡をとってみることにしました。
情報機関の青年は王女が遥か遠く離れた雪の国にいることにたいそう驚いており、同時にひどく感心してくれました。
それから、ひとつだけ気になる話がある、と王女に教えました。
その話とは、雪の国からひとつ山を越えた先にある大きな湖のほとりに古い塔があり、そこに各国の権力者が集まっているようだといことでした。
聞けば隣の国の王女の憧れのリーダーもその塔に向かっているとのことだったので、王女は騎士団のうら若き青年と共にこっそりその塔へ向かうこととしました。

Ⅶ.
ふたりが塔に到着したのは数日後の夕方でした。険しい山を越えたふたりはすこし疲れていましたが、もしかしたら雪の国の王が見つかるかと思い気力を奮い立たせました。
塔の中は薄暗く、松明の灯りを頼りにふたりは塔を彷徨いました。しばらく進んだ頃、うっすら部屋から灯りが漏れているのが見えました。部屋の中からは激しい言い争いの声が聞こえます。
こっそり部屋の前の柱の陰にふたりは隠れました。漏れ聞こえてくる声を聞くと若い騎士は話しているうちのひとりはうちの王さまです!と興奮したようすで王女に伝えました。
王女はもう少し様子を見た方がいいと伝えましたが、若い騎士は絶対に王を捕まえるといって部屋に入っていきました。慌てて王女も彼のあとを追いました。
追いましたが王女は突如後ろから口に布を当てられ王女の悲鳴は闇にかき消されることとなりました。
次に目を覚ました時、王女は黴くさくたくさんの本が詰まれた小部屋の椅子にもたれていました。
いったいぜんたいここはどこなのでしょう。そして誰が王女をここに連れてきたのでしょう。なんの目的で?王女は混乱しましたが薬を嗅がされたせいか、いまいち頭がはっきりと働きませんでした。
王女が項垂れていると、1人の少年が部屋に入ってきました。魔法使いのような衣装を纏った赤髪の少年は、王女が意識を取り戻したことに気づくと大きな声を出して騒がないでほしい、自分は危害を加えないと王女に言いました。王女は反抗しようとしましたが不思議と口からは了承の言葉しか出てきませんでした。
赤髪の少年は話を続けます。
自分の尊敬する魔法使いは今やわるいまほうつかいと呼ばれ全世界の敵であること。彼はそのまほうつかいを探していること。そのために各国から権力者を集いまほうつかいの足取りを追っていること。やっとまほうつかいのいる城がわかったが、その城は魔法がかけられていて簡単にははいることができず、にっちもさっちもいかなくなっていること。王女と一緒にいた騎士は雪の国の王と会えて共に行動していること。(王女はこれを聞いてようやく安心しました)少年の水晶占いで王女の姿が見えたのでこの小部屋に連れてきたこと。
少年は王女にまほうつかいのいる城にいき、どうなっているのか確かめてほしいとお願いしました。あまりにも必死な少年の姿をみて王女はわるいまほうつかいがいるという城を訪れることを決意しました。

Ⅷ.
その城は美しい薔薇園の中にひっそりと佇んでいました。あたり一面にむせかえるほどの薔薇の香りが漂い、まるで王女は自分も薔薇の一輪になったような気分になりました。
城の門には1話の白い鳩が入った鳥籠がありました。
鳩は王女に向かって次々と質問をします。おまえはどこからきたの?なぜ男の子なのに王女の格好をしているの?なんの目的でここにきたの?どのくらい友達がいるか?尊敬している人はいるか?国を守るのに大切に思うことはなにか?愛を信じるか?
王女はそれこそ鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚きましたが、鳩の質問にひとつずつ丁寧に答えました。
自分ははるか北にあるちいさくも美しい国からきたこと。他の王子たちが心配して身を隠すために姫の格好をしていること。わるいまほうつかいを倒すためにここにきたこと。ここにたどり着くまでにたくさんの友達ができたこと。今まで出会った人全員に敬意を払っていること。国を守るのには勇敢さ、誠実さ、強さ、したたかさ、人を大切に思うことが必要だとこの旅で学んだこと。愛を信じているということ。
全ての質問に答えた途端、鳩は魔法のように消え、美しい黒髪の青年の姿に変わりました。
王女はたいへん驚きました。
その青年は王女の尊敬する隣の国のリーダーだったのです。青年は王女に自分はまほうつかいと古くからの知り合いで、彼を守るためにこの城で一時的に門番をしていることを話しました。
王女はなぜわるいまほうつかいを助けるのか聞きたかったのですが、青年はそれだけ話すとパッと瞬間移動したかのように消えてしまいました。王女はいばらの蔦が這う魔法使いのお城に単身乗り込むこととなりました。

Ⅸ.
魔法使いの城はすさまじく広く、壁の絵は勝手に動き回り、あちこちに謎の光が飛び交い、誰も存在していないのに誰かがそこにいるかのような気配を漂わせ、王女は内心おっかなびっくりで城の最上階の部屋を目指しました。
王女がその部屋のドアノブに手をかけようとしたその時、静かに部屋の扉は開きました。
部屋の中には一瞬誰もいないように思いましたが、月明かりが溢れる窓際に誰かが佇んでいるのを王女は見つけました。
あれが噂のわるいまほうつかいだ、と王女はハッとしましたが、彼は王女の存在にまだ気づいていないようでした。
王女は彼の美しさに思わず見惚れてしまいました。月光を浴びてきらきらと輝く長髪は純銀を紡いだよう、顔こそ煌びやかな仮面に半分隠されていますがアメジストの瞳は物憂げにあやしく煌めき、もし月に女神がいたらこういう人物なのではないか、と王女は思いました。
声をかけるべきか王女が悩んでいると、魔法使いは王女の存在に気づいたようでした。彼は二、三度まばたきをしたあと、王女に向かってともやくん、今晩はと挨拶をしてきたので王女はなぜ自分の名を知っているのかと驚き逃げ出したくなりました。
しかしここで逃げ出してしまっては今までの旅が無駄になってしまいます。たくさんの自分を助けてくれた人たちの好意も無下にすることとなるでしょう。魔法使いは王女がなぜここにきたのかはわかっているようでした。
彼が一度指をぱちんとならすと、王女のドレスは王子がとっておきのときに着る薔薇十字の騎士団の衣装へあっという間にかわりました。
さあ、その剣で私のことを殺してください、と魔法つかいは微笑みます。
王女…いや、王子はぎょっとしました。王子には魔法使いを殺す気持ちなんてまったくもっていなかったからです。王子はだんだん腹がたってきました。自分がつらく苦しい思いをしてやっとたどり着いた魔法使いの城、さあ魔法使いをたおそう!と意気込んだが肝心の魔法使いはどうぞどうぞ私をたおしてくださいという状態なのです。なぜ隣の国のリーダーが彼を匿っていたのかも明らかになっていません。
王子は魔法使いになぜ世界を混沌に貶めているのかと詰め寄りました。魔法使いはいきなり怒り出した王子に目を丸くしていましたが、あまりの王子の迫力に懇々といままでの出来事を語り始めました。
自分はかつて王子の隣の国を治めていた皇帝のお抱えの魔術師だったこと、皇帝が革命によって倒されたあとは赤髪の少年を弟子にし数々の魔法の研究をしていたこと、途中の旅で色々な人に出会って病人の手当てをしたり気候の調節を魔法でしていたこと、人々の期待に応えているうちに民衆の欲望はどんどん大きくなり自分の対処できる限界を迎えてしまったこと、いつの間にかんるいまほうつかいと人々に呼ばれるようになったこと、限界を超えて魔法の力を使ったがためにもうほとんど魔力は尽きてしまったこと。
魔法使いは自分を必要としてくれるひとはもうこの世界にいないのです、と王子に伝えました。
それをきいた王子は心底腹が立ちました。平々凡々な王子はいつも自分に自信がありませんでした。
しかし目の前にいる知識が豊富で、魔法も使えて、その上とびきりの美丈夫の男は王子にないものをたくさん持っているのに自信をなくし、世界からいなくなろうとしているのです。
王子にはそれが許せませんでした。
この旅を通じて王子は人に必要とされることの大切さ、人に頼ることの大切さをたくさん学んできました。
王子は思わず魔法使いに手を差し伸べました。自分はこれから国を支えていくのにおまえの力が借りたい、と王子は魔法使いに言いました。
魔法使いは思いもよらなかった王子の言葉をきき、言葉を失いました。
彼はだいぶ躊躇っているようでしたが、王子の心には迷いはありません。
ついに魔法使いは王子の手を取りました。
その瞬間、王子が携えていた剣は輝く薔薇の宝石がはまこまれた魔法の杖へとかわりました。
王子は杖を魔法使いに手渡して微笑みました。魔法使いが魔力を失っていたのは人を信じることを忘れていたからで、いま再び王子のことを信じてみようと思った魔法使いは魔法の力が戻ってくるのを感じました。
魔法使いが薔薇の杖を一振りすると、空には虹がかかり、萎れていた薔薇は瑞々しくまた咲き誇り、太陽が燦々ときらめきはじめました。
魔法使いの目からは一粒の涙が溢れましたが、王子は見て見ぬふりをしてあげることにしました。
世界はたくさんの愛で満ち溢れているのです。

Ⅹ.
王子と魔法使いがどうなったか?それは神のみぞ知る…と言いたいところですが国のこの繁栄を見る限り平穏が保たれているのでしょう。
隣の国は若き革命者たちが時にはつまづきながら、それでもたくさんの笑顔で国を豊かにしていきました。
西の国ではやっと混乱を収めた兄王子が帰還し、弟は喜んで…はいないようですがそれなりにうまくやっているようです。
砂漠の国では今日も馨しき王子が従者とともに見事な剣舞を披露し、海辺の国では双子の王子たちがまたこっそりと城を抜け出し大道芸で人々をたのしませています。
5人の戦士が守る南の国は永遠の正義と繁栄を誓い、雪の誇り高き騎士団が傅くのは玉座に舞い戻った王の元。
赤髪の少年はいったいどこへいってしまったのか、今のところはよくわかりません。国の数だけ、人の数だけ物語は紡がれて、ここにあるは終わりのない物語なのです。